ーー焙煎を始めたのは2015年?
「そう、2015年の夏ですね」
ーー焙煎までやる人って、やっぱりごくごく少数だと思うんですけど、きっかけは?
「ブログにも書いたんですけど、お気に入りの豆が手に入らなくなったから。“ZOKA”というカフェの豆が好きで、何年も買っていたんですが、日本から撤退しちゃって、手に入らなくなって。ほかのお店でもたくさん買って試したんですけど、結局、どれも好みとはちょっとズレてて、ある日見つけた焙煎入門のムックを買って焙煎の道に足を踏み入れた格好です(笑)。だから結局は、じゃあ自分で焼くしかないな、という結論になったというか」
ーーそんなムックあるんですね(笑)。
「当時、たまたまあったんですよ。片手鍋と50gずつの生豆がいくつかセットになったやつ。こんなのでコーヒー焼けるの? なんて思いながら解説どおりにやったら、ムラだらけだったけど、それなりにカタチになって。で、カフェラテにしてみたら、びっくりするくらい美味しくて。そこからドップリですね」
ーーそのあとにサンプルロースター?
「いえ、次に買ったのがアウベルクラフトで、その次にサンプルロースターで、最後に今使っているカルディですね。アウベルとサンプルロースターには、ホントお世話になりました。ものすごく勉強になった」
ーーそこで焙煎のイロハを学んだ?
「そうですね。焙煎中の豆がどういう変化をしていくのか、とか、こう焼くとこんな味になるとか、大雑把なことですけどね。同じ温度で入り上げるにしても、途中の火力の変化だったり、かけた時間でどう変わっていくのか、なんてやらないとわからないですから。だけど、それって焙煎ではめちゃくちゃ大事で」
ーームックで焙煎したときはうまくいったというお話でしたけど、その後も順調に?
「ぼくが下手なだけかもしれないすけど、そんなにすぐにはうまくいかなかったですね。でも、アウベルは比較的大丈夫だったかな。ただ、突き詰めていこうとすると難しいんですよ、アウベルって。70点はすぐ出せるけど、80点90点をねらおうとすると途端に難しくなる。あと、外気の影響をモロに受けるので、安定しない(笑)。で、サンプルロースターを買ったんですけど、これがまたクセが強くて。直火タイプの250g版で、普通に焼くとアウベルに遠く及ばない感じでしたけど、カバー等をつくってあれこれ工夫してやると、ようやくアウベル以上の豆を焼けるようになった印象ですね。最終的にはサンプルロースターの味がお気に入りになって、カルディでの味づくりのベースになっています」
ーーやっぱり手回し焙煎の経験って生きるんですね。
「そう思います。大変でしたけど(笑)」
ーーカルディも直火タイプですよね? そこにはこだわりが?
「アウベルとサンプルロースターが直火タイプだったから、という理由もあるんですけど、大前提として深煎りが好きで、もっというと直火焙煎の味が好きなんですよ。半熱風の深煎り、熱風の深煎りも、それぞれに特徴があって良いとは思うんですけど、やっぱりぼくは直火特有の奥行きというか、甘さというか、そこが好き」
ーー今となっては直火式の焙煎機使っている店も少ないですよね。
「寂しいですけどね、時代の流れなのかな。深煎りそのものが絶滅危惧種になりつつあるのも悲しいです。といっても、ぼくが好きなのはイタリアン、フレンチとか、そういう油テカテカな深煎りじゃなくて、油が浮くか浮かないかくらいのところが好き、ということは言っておきます。なんか深煎り=苦いのが好き、みたいなイメージだから(笑)」
ーー最近のトレンドの浅煎りは?
「嫌いじゃないけど、好きでもない、かな。たまーに飲むにはいいけれど、普段飲むのは深煎りがいいですね」
ーー浅煎りは全く飲まないですか?
「飲みますけど、せいぜいSTANDARTのオマケくらい? それでも飲まないときもあるから。ぼくだけでなく、家族全員が浅煎り好みじゃないんですよ。STANDARTのオマケをドリップして出すと、苦情がきちゃうくらい(笑)」
ーーなるほど(笑)。
「でもSTANDARTのオマケは勉強になりますよ。なるほど、こういう豆が流行っているのか、とかね」
ーーコーヒー焙煎を初めて7年になりますけど、実際にやってみてどうですか?
「おもしろいです。始めて良かったと思ってますし。焙煎って、やってることはすごく単純なんですけど、めちゃくちゃ奥が深いんですよ。生豆だって、農作物だから毎年デキが違うし、そこをいかにアジャストして自分好みに焼くかが、とても奥が深くて難しくて。だからこそおもしろいんでしょうね」
ーー趣味としては十分アリですか?
「ありだと思いますけど、手を出すなら、ある程度の覚悟は必要かなと。家庭で焙煎するとなると、掃除もちゃんとしないといけないし、煙問題だって無視できないですから。家族がいたら、どこまで理解してもらえるかも大事ですね」
ーー最初の焙煎機としておすすめは?
「自分でも使ってたから言いますけど、アウベル良いですよ。今はほかのブランドからも同じような焙煎機が出てるから、別にアウベル一択ではないとは思いますが」
ーー日本だと手網をおすすめする人も多いですよね。
「もちろん、初期投資を抑えたい人はそういうのも良いと思います。ただ、何バッチも焼くとなると、大変そう。手回しならだいぶ楽なので、そういう意味でも“振る”より“回す”ほうが長続きするかもしれないですね」
ーー最近はスマホで操作したりロギングしたりと、多機能なスマートロースターという選択肢もあります。
「今時っぽくて良いんじゃないですか。使ったことがないので、なにもコメントできませんが(笑)」
ーー購入の選択肢に入らなかったんですか?
「ぼくはガス一択な人なので、電気式の焙煎機は選択肢になかったですね。焙煎機持っていない時期にHottop Coffee Roasterはちょっと興味あったんですけど、電気式という時点でヒーターが劣化するだろうし、故障したら面倒そうなので、やめました」
ーーお気に入りの豆はありますか?
「リピートしてよく飲んでるのはブラジルのショコラ、エチオピアのナチュラル、タイのドイチャンあたり? グアテマラのナチュラルとかも好きですね。あと、最近でいうとアナエロビックとか、いわゆる嫌気性発酵の豆も好きかも。奥様からは“化粧品みたいな味がする”って評判悪いんですけど(笑)」
ーーよく買っているお店は?
「銘柄によっていろいろですね。『マドゥーラ』『ワールドビーンズショップ』『海の向こうコーヒー』」『松屋珈琲』あたりが多いかな。たまーに新規開拓もしてます。後悔することもありますけど。なかでも『海の向こう〜』は少量でいろいろ買えるので、とても便利です。まず200g買ってみて、気に入ったら1kg買う、ということが安心してできる」
ーー少量買えるお店は未だに少ないですよね。
「そう。だから助かります。ぼくが焙煎はじめたときも少量買える店がなかったわけじゃないんですけど、基本は1kg単位で、ほとんど博打みたいな感じでしたからね。200g焼いたけど、残り800gどうしよう……って(笑)。だけど、そういう個人向けに売ってくれる生豆業者があるだけでもありがたいですよ」
ーー今気になっている豆は?
「うーん、とりあえず中国雲南の豆。最近キテる感じがするのと、実際に飲んでみて良かったから。カティモールばかりというのがちょっと残念だけど、これから伸びてきそうでちょっと注目してます。あと、これはどこの豆ってわけじゃないですが、精製方法にどこも力を入れてきているので、それが気になりますよね。嫌気性発酵ひとつとっても、ノウハウの蓄積によって、より高品質になって、さらに複雑で多様なフレーバーが生まれてくるので」
ーーnine.ten coffeeとして、今後の目標はありますか?
「中長期的な目標はとくに設定していないんですけど、このまま安定して継続することがひとつ。あとは、そろそろこのデザインに飽きてきたので、どうにかしたいです。そのうちデザイン変えます」
ーーそういえば、この「nine.ten coffee」という名前の由来を聞いていなかった。
「今さら?(笑) 大した理由はないので、あえて、こうしてもったいぶって言うようなことでもないですよ」
ーーそこをなんとか(笑)。
「いや、オチもないし、おもしろくないから」
ーーオチはなくていいんですよ、単なるネーミングの由来の話ですから。
「うーん、あれですよ、要するにぼくと奥様の誕生日がふたりとも9と10からなってるので、そこからなんとなく」
ーー……なるほど。
「ね、そういう反応でしょ。だからあえて言いたくなかったんですよ」
ーーまぁまぁ。で、「nine.ten coffee」はどういうお店なんですか?
「いや、お店じゃなくて、ただただ趣味でやっているウチのカフェ、というコンセプトの話で……という話をなぜ今(笑)」
ーー気になるかなと(笑)。
「最初に聞くべきでしょ(笑)。もっというと前回」
ーー将来、リアルにお店は出さないんですか?
「宝くじでも当たらないかなー」